西日本の最高峰、石鎚山(いしづちさん)。その山頂から明け方を待つと、朝日に照らされた天狗岳が雲海の上に浮かびあがります。この一瞬を狙って、前日から山の上に泊まって撮影して来ました。
山の紅葉は標高が高い分平地よりも早く、ここ石鎚山では例年10月上旬から中旬が見頃。この記事では紅葉と明け方の光の撮り方を中心に、見頃やルートもまとめています。登山そのものの詳しい話は別記事に譲って、この記事は「撮ること」に寄せて書きます。
石鎚山とは
石鎚山は愛媛県にそびえる標高1982mの山で、西日本の最高峰。「石鎚山」という一つのピークがあるわけではなく、弥山(1974m)や最高点の天狗岳(1982m)などの総称です。一般的に山頂と呼ぶのは、山頂社のある弥山。そこから鋭く切り立った岩稜の先に、最高点の天狗岳が見えます。岩稜は天狗岳の先の南尖峰まで続いていて、弥山、天狗岳、南尖峰がひと続きの稜線に並んでいます。古くから修験道の山として信仰を集め、長い鎖場が連続することでも知られる登山の山。日本百名山の一つにも数えられています。

登山データ
コースタイム(実績)
【1日目】ロープウェイ山頂成就駅12:10 → 成就社12:30 → 試しの鎖13:30 → 二ノ鎖下14:22 → 弥山山頂15:20(休憩+撮影3時間) → 幕営地18:50
【2日目】出発3:30 → 弥山山頂3:50(〜7:20撮影) → 天狗岳7:30 → 弥山山頂7:40 → 夜明峠8:20 → 試しの鎖8:40 → 成就社9:30
※撮影で山頂に計6時間以上いる特殊な行程です。登山として歩くだけなら標準コースタイムを目安に。

天狗岳の稜線を歩くなら

弥山から最高点の天狗岳へは、岩稜の縦走路を片道10分ほど。断崖の上を通る場所はありますが道幅はそれなりにあって、慎重に歩けば必要以上に恐れるような道ではありません。ただ、どこを切り取っても絶景に見えるので、ついカメラを手に持ったまま歩きたくなりますが、それはちょっと危険。こういった場面では、ザックの肩ベルトにカメラを固定できるピークデザインのキャプチャーがおすすめです。歩くときは両手フリー、撮りたい場所ではワンタッチで取り外せて、岩場との相性は抜群です。
※使っているのは一つ前の世代のV2ですが、現行のV3と使い方は同じです
鎖場や天狗岳の縦走そのものの詳しい様子は、別ルートで登った登山記録のほうに書いています。
紅葉の見頃
見頃は例年10月上旬から中旬。今回訪れたのはちょうどピークのころでした。平地の紅葉時期の感覚でいると出遅れるので、9月末ごろから見頃情報をこまめにチェックしておくのがおすすめです。

見頃の時期は登山者も一気に増え、頂上山荘の予約も早くから埋まってしまいます。泊まりで狙うなら、ある程度見頃を読んだうえで早めの予約が大事です。
朝日に染まる紅葉の天狗岳
深夜からすでに山頂にいて、暗闇の中で夜明けを待ちました。
頭上には満天の星。月が沈んだ夜で、光害のない山頂は驚くほど星がよく見えます。

空が白みはじめると、暗くて見えなかった眼下の雲海が、少しずつ姿をあらわします。よく見ると雲は奥から手前へと流れていて、稜線を越えた雲がまるで滝のように山肌を滑り落ちていく。この滝雲の迫力がとにかくすごく、夜明けを待つあいだ眺めているだけでも来た甲斐がありました。
空の色が刻々と変わり、やがて雲海の縁から太陽が顔を出します。その光を浴びて、天狗岳の紅葉がいっせいに輝きはじめました。この景色が見たかった。重い機材を担ぎ上げた苦労も、明け方の寒さも、全部報われる――これだから山は、風景写真はやめられない。

撮影のコツ
撮影地点と天狗岳の見え方
朝日の天狗岳を撮る場所は、大きく分けて二つ。弥山の台地の天狗岳側の端と、山頂社の横あたりです。どちらから撮るかで、天狗岳の表情がずいぶん変わります。
山頂社の横から望む天狗岳は、紅葉の木々が裾野まで広がって、比べると岩よりも木々の印象が強い。山頂の稜線もどちらかといえばなだらかで、山体がどこかやわらかく見えます。紅葉に染まる山を主役にしたいなら、こちらです。

いっぽう台地の端からは、天狗岳に一歩寄って正面から見据える構図になり、岩の印象が強まります。そのぶん山頂は塊感が増して、先端の鋭さが際立つ。ゴツゴツした岩稜を強調したいなら、こちらが向いています。

なお、明け方はどちらの場所も日の出前から埋まります。良い位置を狙うなら早めに。

太陽を入れると主役が変わる
弥山から見て天狗岳は南東の方角。秋の朝日はほぼ真東から昇るので、朝の天狗岳は半逆光になります。岩稜は陰影が生まれて立体感が際立ち、葉の縁や木々に光が回り紅葉は柔らかく輝いて見える。紅葉の山岳風景を撮影するのにベストな光のひとつと言えると思います。
ただし、太陽と天狗岳の位置が近く、ほぼ構図に入ってくることになります。太陽を構図に入れるか外すかで写真の性格ががらりと変わるので目的に応じて選びましょう。
| 太陽を外す | 太陽を入れる | |
|---|---|---|
| 主役 | 紅葉に染まる山 | 昇る朝日 |
| 明暗差 | 抑えやすい | 大きい(白飛び・黒つぶれに注意) |
| 目的 | 山そのものを見せたい | その瞬間の感動を残したい |
※撮影地点は山頂社の横のほうが天狗岳との角度・距離の面から、少しだけ太陽を外しやすくなります。
朝と夕で光が入れ替わる
明け方だけの山ではありません。弥山から見ると、天狗岳、その先の南尖峰が南東方向へ一列に並んでいます。この配置のおかげで、弥山から天狗岳方面は明け方が半逆光、夕方が半順光と、時間帯で光がきれいに入れ替わる。順光の夕方は紅葉の色が素直に出て、逆光の朝は陰影が強く出る。同じ稜線で朝と夕、二通りの光を楽しめる配置です。
逆に天狗岳側から弥山を見ると、夕方が半逆光になります。

レンズと機材
レンズはSONYα7R IIIにFE 24-70mm F2.8 GMの標準ズーム一本。全景の引きから天狗岳の切り取りまで、これで足ります。フィルターは使いませんでした。三脚は軽いものを一本だけ。星や薄明の遅いシャッターに使うぶんには十分で、荷物を軽くしたい山では軽量三脚が現実的です。
使っている機材の詳細は撮影機材まとめで紹介しています。
防寒はレンズより大事かもしれない
最後にもう一つ、考え方によっては機材よりも大事かもしれない話を。10月とはいえ石鎚山頂の夜明け前は真冬並みの寒さです。このときはダウン上下を着込みウインドシェルで防風して、風の強い山頂でもなんとか耐えられました。
凍えるような環境で何度も撮影してきて思うのは、寒いとまずやる気がなくなるということ。構図を追い込んだりベストな光を待ったりする気力が消えて、さっと撮って帰ろうになってしまう。どれだけ良い機材を持っていても、寒さに負けた瞬間に写真は妥協します。明け方を狙うなら、防寒は本気で。
山で泊まって撮るということ
夕日、星、そして朝日。山の上に泊まると、日帰りでは決して見られない光の移ろいを見ることができます。明け方のいちばん良い光はほんの十数分――その瞬間に立ち会えることが、山に泊まって撮ることの最大の魅力です。工程は長くなりますし、テントを担げば重くなる。でもそれに見合うだけの景色が待っています。
このときは二ノ鎖の下にテントを張って、真っ暗な3時半に山頂へ向かいました。
ただ、これはあまりおすすめできません。テントを張った場所から山頂まではそれなりに標高を上げますし、鎖場の迂回路もトラバースが続いて、足を踏み外せば危険な箇所をヘッドライトの明かりだけで歩くことになります。

おすすめは、撮影地まで徒歩0分の頂上山荘に泊まること。5月から11月上旬の営業で予約制。雲海の日の出や夕陽、星空は山荘の名物でもあります。ただし紅葉の時期は予約が殺到するので、行くと決めたら早めに。実はこのときも先に山荘に当たったものの、すでにいっぱいで諦めた経緯があります。
2026年7月現在、頂上山荘の公式サイトに、石鎚の国定公園内に公式のテント場はないとの案内が出ています。訪れた当時は個人のテント泊の記録もそこそこ見かけて、そこまではっきり示した情報には行き当たりませんでした。当時張った場所も許可された幕営地ではなく、あくまで黙認だったようです。近くのトイレも2025年から使えなくなっています。今からこの景色を狙うなら、テントではなく頂上山荘の早めの予約を。
石鎚山の見頃・ルート・宿泊(実用情報)
紅葉・例年10月上旬〜中旬
石鎚登山ロープウェイ 山麓下谷駅→山頂成就駅(約8分) 往復2,200円 →成就ルートへ
頂上山荘(山小屋・5月〜11月上旬・予約制 紅葉期は満室になりやすく早めの予約を) 国定公園内に公式のテント場はなし
成就社・山頂周辺にあり(二ノ鎖下のトイレは2025年から使用禁止)

※本記事の実用情報は執筆時点の目安です。料金や運行時間は変更される場合があるため、お出かけ前に必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。
まとめ
石鎚の紅葉は、標高の高さゆえに里よりひと足早く色づきます。狙いは明け方――前夜に山上へ入れば、満天の星から、滝のように山肌を流れ落ちる雲海、そして雲海の縁に太陽が昇る瞬間まで、移り変わる光景をひと晩かけて楽しめます。その先に待っているのが、朝日に染まる天狗岳。前泊のひと手間をかければ、日帰りでは届かない景色に会えます。行くなら防寒を万全に、そして山荘の予約と山頂での撮影地の確保は早めに。安全に石鎚の秋を楽しんでください。
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