涸沢カールの紅葉撮影ガイド|色づきを見て選ぶ3つの構図

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燃えるように色づいたナナカマド越しに望む涸沢カールと穂高連峰

登山を始めるきっかけになったのは、紅葉に染まる涸沢を写した一枚の写真でした。

「ここに行ってみたい。」

そう強く思わせるほど、その風景は美しかった。

穂高連峰の懐に抱かれた涸沢カール。秋になると、広大なカールが一面ナナカマドの赤やダケカンバの黄に染まり、多くの登山者を惹きつける紅葉が広がります。

この記事では、涸沢の紅葉を撮ることに絞って、狙える構図と、その日の景色に合わせた撮影場所の選び方を紹介します。

目次

涸沢カールとは

涸沢カールは、北アルプス穂高連峰に囲まれた圏谷(カール)。氷河に削られたお椀状の地形で、標高はおよそ2,300m。前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳をぐるりと見上げる特等席で、日本を代表する岩稜・穂高へ向かう登山者の一大拠点でもあります。カールの底には涸沢ヒュッテと涸沢小屋の二つの山小屋が建ち、紅葉のシーズンには斜面をびっしりとテントが埋めます。

涸沢カールの底に残る雪渓と紅葉に彩られた斜面
カールの底に残る雪渓

登山データ

涸沢へは上高地から入るのが一般的です。ここでは、その定番ルートの目安を載せておきます。

エリア
北アルプス 穂高連峰/涸沢カール(標高約2,300m)
起点
上高地(バスターミナル)
距離
上高地→涸沢 片道 約15km
累積標高差
登り 約1,000m
標準CT
片道 約6時間
難易度
体力★★★★☆ 技術★★☆☆☆(涸沢まで)

コースタイム(実績)
【往路】上高地6:20 → 徳沢7:50(休憩20分) → 横尾9:00 → 本谷橋10:05 → 涸沢11:50
【復路】涸沢7:25 → 本谷橋9:15 → 横尾10:30 → 徳沢11:20(休憩30分) → 上高地14:00 
  ※復路は明神池などへ寄り道したため標準より遅めです

上高地から横尾までは、梓川沿いの平坦な道が約3時間。ここまではハイキング気分で歩けますが、本谷橋を渡ると一転して涸沢への登りが始まります。難易度そのものは高くないものの、日帰りは難しく、涸沢での一泊が前提になります。宿泊は涸沢ヒュッテか涸沢小屋、あるいはテント泊。涸沢から先の稜線(奥穂・北穂)は難度がぐっと上がるので、この記事では触れていません。

上高地へのアクセス

涸沢の玄関口となる上高地は、通年でマイカー規制が敷かれています。自家用車では乗り入れられないので、長野側なら沢渡(さわんど)、岐阜側ならあかんだな駐車場に車を停め、そこからシャトルバスかタクシーに乗り換えて上高地へ向かいます。東京・名古屋・大阪などからは、上高地行きの直通高速バスを使う手もあります。

登山のスタートは上高地バスターミナルから。先に触れたとおり涸沢までは片道約6時間なので、始発のバスで早めに入るか、上高地か横尾で前泊して翌朝から歩き始めると、余裕を持って行動できます。シャトルバスは運行期間や始発・最終の時刻が季節で変わるので、出発前に公式情報を確認しておくと安心です。

紅葉の見頃

紅葉の時期は例年9月下旬から10月上旬。標高が高いぶん、里の紅葉よりずいぶん早く色づきます。そのなかで見頃と呼べるのは一週間ほど、いちばん美しいピークは数日ほど。その年の気候にも左右されるので、9月に入ったら山小屋の発信する紅葉情報をこまめに追っておくのがおすすめです。見頃の時期は登山者も一気に増え、テント場も山小屋も混み合います。

カールの紅葉は、上部の斜面から色づきはじめ、日を追って少しずつ下へ。そしてピークを過ぎた一帯から、順に色を落としていきます。この話は、後ほど撮影のコツの節で詳しく触れます。

撮影のコツ

要点まとめ
立ち位置
その日いちばん色づいた場所を主役に 3か所を使い分ける
時間帯
日の出のモルゲンから朝のうちが狙い目
レンズ
広角〜標準ズームがおすすめ 主に使ったのは24〜35mm

定番の構図と、三つの立ち位置

涸沢を代表するのは、紅葉のカールと穂高連峰を一枚に収めた構図。立ち位置を少し変えるだけで、前景や写る範囲が変わり、写真の印象も大きく変わります。まずは、この三つの立ち位置を押さえておくと撮影しやすくなります。

涸沢カールの三つの撮影地点を示した図 テント場・涸沢ヒュッテ・パノラマコース
涸沢小屋のあたりから見た涸沢カール 三つの立ち位置の位置関係

① テント場周辺(35mm)
右手にそびえる北穂高の岩壁を見上げるように切り取ります。紅葉の斜面と荒々しい岩壁を一枚に凝縮でき、低い位置から見上げるぶん岩壁が高く聳えて写ります。

テント場から見上げた涸沢カールの紅葉の斜面と岩稜

② 涸沢ヒュッテ周辺(24mm)
手前のナナカマドを前景に入れると、カール全体のスケール感を表現できます。前景の赤を引き立てて奥行きを出したいならこの構図。

涸沢ヒュッテ前のナナカマドを前景にした紅葉のカール全景

③ パノラマコース(26mm)
ヒュッテの脇から少し登ると、カール全体を見渡す構図になります。テント村や山小屋まで含めて、涸沢という場所そのものを一枚に収められるのが魅力です。
※パノラマコースは上級者向けルートとして知られていますが、撮影地はヒュッテからすぐ。難しい場所はありません。

紅葉に彩られた涸沢カールと穂高連峰の稜線

その日の色づきを見て、立ち位置を決める

涸沢に着いたら、カメラを構える前にカール全体を眺めてみてください。

色づきは一気に進むわけではありません。まず上部の斜面から始まり、日を追ってヒュッテの周辺、そしてカールの底へと降りてきます。その日どこまで降りているかで、主役になる場所=立ち位置が変わります。目安は次のとおりです。

鮮やかに色づいている場所おすすめの立ち位置狙いやすい構図
涸沢小屋付近の上部斜面① テント場周辺北穂高の岩壁と紅葉を切り取る
ヒュッテ前のナナカマド② 涸沢ヒュッテ周辺ナナカマドを前景にカール全景を撮る
カール全体③ パノラマコース紅葉とテント村を含めたカール全景

色が良くない部分は、画面から外す

ただ、進み具合だけを見ていても、思いどおりにいかないことがあります。同じように色づいた年でも、株ごとの差や風の影響で、一部だけ元気がないことがあるからです。

下の二枚は、別の年にほぼ同じ場所から撮影した写真です。どちらもカール全体としては色づいていましたが、手前に写る涸沢ヒュッテ前のナナカマドを見ると、Aは鮮やかなのに対して、Bは葉を落としています。株ごとの差か強風か、原因までは分かりません。

手前のナナカマドが鮮やかに色づいた涸沢カールの紅葉
A 色づいた年
手前のナナカマドが葉を落とし、奥にガスがかかった涸沢カールの紅葉
B 葉を落とした年

Bを撮った年、一目見て「ハズレ年だ」と思いました。Aのときに見たヒュッテ前のナナカマドが忘れられず、それを前景とした②の構図を狙っていたからです。

ところが少し立ち位置を変えてみると、色づきの良い場所は残っていました。そこを切り取ったのが、記事のいちばん上に置いた一枚です。結果的にいちばんのお気に入りになりました。

色が良くない部分は、無理にフレームへ入れず、思いきって外してしまう。同じ日に同じカールにいても、見ている場所が違えば結論が正反対になることもあります。

光の向きを意識すると、写真の印象は大きく変わる

撮る場所を決めたら、次に意識したいのが光です。同じ構図でも、光の向きが変わるだけで写真の印象は大きく変わります。

涸沢は東側に開けたカール地形のため、朝は比較的光が入りやすく、撮影のメインとなる時間帯です。朝日を受けた紅葉は鮮やかに輝きます。条件がそろえば、日の出直後には穂高連峰が赤く染まるモルゲンロートに出会えることもあります。涸沢を代表する朝の景色のひとつですが、天候に左右されるため、必ず見られるわけではありません。

一方で、太陽が高くなるにつれて光の向きも変わり、斜面の陰影や紅葉の見え方も変化していきます。また、夕方は穂高連峰の影が少し早く落ちるため、撮影できる時間はそれほど長くありません。

午後の涸沢カール 稜線の影が谷を覆いテント場が日陰に入っている
15時すぎの涸沢 午後は稜線の影が早く落ちてくる

「何時がベストか」よりも、「その時間の光をどう生かすか」。そんな視点で景色を見ると、同じ場所でもさまざまな表情に出会えます。

山の天気は最後まで分からない

山では、天候の変化も写真の印象を大きく左右します。

さっきまで青空が広がっていたと思えば、あっという間にガスが湧いてカール全体が白く包まれることもあります。反対に、厚いガスに覆われていても、一瞬だけ雲が切れ、思いがけない景色が現れることも珍しくありません。

ガスに包まれ真っ白になった涸沢カール、手前に紅葉の斜面とテント場

実際、ガスで撮影を諦めて下山したことがありました。あとから下山してきた方に聞くと、「そのあと一瞬だけ雲が切れて、素晴らしい景色が広がった」とのこと。わかってはいたことですが、山の景色は本当に一瞬で変わるということを、改めて痛感させられました。

もし時間に余裕があるなら、すぐに諦めず、いつでも撮影できる状態で景色を見続けてみてください。その数分後にしか現れない光や雲の表情が、その日だけの一枚につながることもあります。

レンズと機材

使ったのはSONYα7R(初代)に、16-35mmの広角ズーム一本。カールの広さを写すには、やはり広角が頼りになります。全景はこれで悠々と収まりますし、上部を切り取りたいときは望遠端の35mmで寄せて、足りなければ後からトリミングで整えます。とはいえ、実際に使ったのは24〜35mmあたり。広角から標準までをカバーするズームが一本あれば、同じように撮れると思います。夜のテント村や星景を撮るつもりで、軽量のトラベル三脚(Befree)を持っていきました。

撮影機材
カメラ
SONYα7R
レンズ
SONY FE 16-35mm F4 ZA OSS(広角ズーム)
三脚
Manfrotto Befree カーボン4段(トラベル三脚)

使っている機材の詳細は撮影機材まとめで紹介しています。

もうひとつの見どころ、涸沢のテント村

紅葉のカールが主役ですが、涸沢にはもうひとつ、ここでしか撮れない被写体があります。それがこの斜面を埋めるテント村。最盛期には1000張のテントが集まるとも言われます。日が落ちると、ひとつひとつのテントが内側から灯って、まるで小さな灯りの群れのよう。

これを撮るために重いテント泊装備に加えて三脚も持ってきました。日が落ちた直後、空にまだ青が残る時間帯が、テントの灯りと空の色のバランスがいちばん良いタイミングです。

夜の涸沢テント村、色とりどりのテントが灯る

涸沢テント泊の装備

涸沢はテント泊の聖地とも呼ばれる場所。あの色とりどりのテント村の一員になって、朝と夜の光をじっくり狙えるのが、テント泊で撮ることの醍醐味です。ただし紅葉期の涸沢は、朝晩は氷点下近くまで冷え込みます。安全かつ快適に一泊するには、しっかりとした山岳用テントと防寒にも気を使いたいところ。

実を言うと、この涸沢が初めてのテント泊でした。テントも含めて、多くの装備をこの時に初おろし。右も左も分からないまま、いきなりその聖地に飛び込んだことになります。そんな初テント泊の相棒が、今も使っているこのテントです。

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涸沢をはじめとした山でのテント泊で実際に使っている装備は、別の記事に一式まとめています。これから涸沢での一泊を考えている方は、あわせてどうぞ。

▶ 登山テント泊の装備一式(実際に使っているギアまとめ)

まとめ

涸沢の紅葉は、毎年同じ表情を見せてくれるわけではありません。色づき方も、光も、天候も、その日、その年ごとに変わります。

だからこそ、SNSで見た景色と少し違っても、がっかりしないでください。決まった撮影スポットを探すのではなく、その日いちばん映える立ち位置を探す。紹介した三つの構図を知っておくだけでも、条件に合わせて柔軟に撮れます。それが、涸沢の紅葉を撮るいちばんのコツだと思っています。

山では、思いどおりにいかないこともたくさんあります。それでも、その日にしか出会えない景色があります。だからこそ面白いし、また涸沢へ足を運びたくなるのだと思います。

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